「退職はほぼ決まったけれど、引き継ぎをどう始めればいいかわからない…」そんな不安を抱える看護師は少なくありません。
看護業務は日々のルーチンだけでなく、“患者ごとの個別性”や“暗黙の了解で進んでいる仕事”が多いため、形式的な申し送りだけでは後任者が困ってしまうからです。
逆に言えば、引き継ぎをきれいに整えることで「最後の評価」が高まり、職場から感謝されながら円満に退職することができます。
本記事では、看護師の引き継ぎで押さえるべき基本ポイントから、チェックリスト・例文まで実践的に解説します。何から始めればいい?という方にもわかりやすく順序立てて紹介していきます。
看護師の引き継ぎ、まず“着眼点”を整理する
看護師の引き継ぎは「申し送りすれば終わり」という単純なものではありません。
引き継ぎ相手が次の日から“同じ質で看護できる状態”をつくることが目的であり、書類の受け渡しや口頭説明だけで完結するものではないからです。
特に看護業務は「患者」「情報」「業務(物品含む)」の3軸で成り立っているため、まずは“どこまでを自分が引き継ぎ対象とするか”を整理することがスタート地点になります。
なぜ引き継ぎが“困る”のか—看護師現場ならではの事情
看護師の引き継ぎは、一般企業の「業務マニュアル」より難易度が高いと言われます。その理由は、業務の大部分が「状況依存」かつ「患者依存」だからです。
よくある引き継ぎの困りごと
| 悩み | 背景 |
| どの情報まで渡すべきかわからない | 個別性が高い |
| 口頭で説明したつもりでも伝わらない | “当たり前”が共有されていない |
| ルール化されていない看護が多い | 現場慣習・独自運用が多い |
つまり、「引き継ぎ=紙に内容を書くこと」ではなく、「後任者の視点で情報を整理すること」という考え方が重要になります。
最悪ケースを防ぐための3つの基本着眼点
引き継ぎにおいてミスにつながるのは、「何を」「どこまで」「誰に」引き渡すかが曖昧なときです。そこで、最初に押さえるべき着眼点は次の3つ。
| 着眼点 | 内容 | ミス例 |
| ① 患者 | 診療状況・看護計画・観察ポイント | 「その患者の個別注意点」が抜ける |
| ② 情報 | カルテ記載外の実務情報(家族対応・慣習等) | 非共有情報でトラブル |
| ③ 物品・業務 | 補充・業務ルーチン・委員会など | 担当不在で現場混乱 |
どれか一つでも漏れると、「退職した人にまた聞かなければわからない」という状況が生まれ、後任者に負担がかかります。
引き継ぎ開始の“時期”と“責任範囲”を確認する
引き継ぎは資料作成がゴールではなく、開始のタイミングが重要です。
| タイミング | 理想 | よくある失敗 |
| 退職表明直後 | 着手開始(引き継ぎ範囲の洗い出し) | 後回しになり最終週が地獄 |
| 引き継ぎ前半 | 情報整理・草案作成 | 「資料が未完成→口頭のみ」に |
| 引き継ぎ後半 | 本格移管・確認 | 時間切れで質が低下 |
さらに、責任範囲も明確にしておきます。
| 項目 | どこまでやる? |
| 患者情報 | 「今日までの状態」まで |
| 物品管理 | 在庫確認 or 手順書整備 |
| 係・委員会 | 後任の決定・フォロー期間 |
「いつ」「どこまで」やるのかを決めて初めて、引き継ぎが計画として成立します。
引き継ぎ資料・情報整理のポイント
引き継ぎで最も重要なのは、「後任者が迷わず動ける状態」を作ることです。そのために必要なのは、「情報の量」ではなく「情報の整理の仕方」。
看護は“状況”に依存する業務が多いため、ただ記録を並べただけでは伝わりません。ここでは、現場で実際に使える「整理の仕方」と「伝えるべき粒度(濃度)」を具体的に解説していきます。
患者情報・治療経過・ケア留意点を“書きやすく・伝わりやすく”整理
担当患者に関する情報はカルテに記載されていますが、実際の現場ではカルテだけではわからない情報が多く存在します。
記載すべきは以下の3層構造です。
| 層 | 内容 | 例 |
| ① 基本情報 | 診断名・ADL・治療方針 | COPDⅣ/ADL:一部介助 |
| ② 観察ポイント | 日常看護で重視していた点 | 夜間SpO2低下しやすい/排痰困難 |
| ③ カルテ外情報 | ご家族・性格・精神面 | 娘がキーパーソン/不安が強い |
“③カルテ外情報”こそ、引き継ぎの質に差が出る部分です。ここが抜けたまま引き継ぐと、後任者が患者理解に時間を要し、看護の質が下がります。
業務手順・委員会・備品管理など“見えない仕事”の可視化
看護師の引き継ぎミスの多くは、「暗黙の仕事」が表に出てこないことが原因です。
| 引き継ぎの落とし穴 | 具体例 |
| 委員会・係の仕事 | 感染対策・防災・備品申請 |
| ルーチン化した作業 | ○曜日の○○チェック・定期棚卸 |
| 慣習で進む仕事 | 先輩が毎回 “気付いて”やってた業務 |
これらは“説明されないと存在がわからない業務”です。後任が知らなければ、「できない」のではなく「存在を知らないだけ」になり、抜け落ちてトラブルにつながります。
という整理方法が最も再現性が高くなります。
引き継ぎシートやテンプレートを活用すると“感情頼り”にならない
引き継ぎは口頭だけに頼ると必ず漏れが出ます。テンプレート(シート化)すれば“誰にでも伝わる引き継ぎ”になります。
引き継ぎシート例(枠組み)
| 項目 | 内容 |
| 担当患者 | 基本情報/観察ポイント/注意点 |
| 日常業務 | 時間・頻度・タイミング |
| 慣習・運用 | 暗黙ルールや注意点 |
| 委員会・係 | 業務範囲/担当時の留意点 |
| 申し送り事項 | 未対応タスク/依頼事項 |
形式に落とすことで、「相手にどう伝えるか」ではなく「何を抜け漏れなく渡すか」に集中できます。
シフト・夜勤・交代制の引き継ぎで見落としがちなポイント
看護師の引き継ぎで最も“事故”が起きやすいのは、シフト面です。
業務内容だけ整理していても、「誰がどの時間帯で動くのか」「夜勤の役割はどうなっているのか」が後任者に伝わっていなければ、現場の稼働が崩れてしまいます。
ここでは、退職手続きの中でも特に看護師特有のポイントを整理し、見落としを防ぐ視点をお伝えします。
夜勤回数・交代体制・バトンタッチの流れ
夜勤には「表に見えない役割」が多く、ここを整理せずに去ると負担が次の人に一気にのしかかります。
| 確認項目 | なぜ必要? |
| 夜勤回数・割当 | 今後の人員調整に影響 |
| 当直/準夜/深夜の内訳 | 班分け・経験値の把握 |
| 観察強度の高い患者 | 夜間の優先度が変わる |
夜勤引き継ぎは「業務」ではなく“安全性”に直結しています。そのため、後任が迷いなく動けるよう、言語化して残すことが重要です。
急変対応・オンコール・連携スタッフの情報整理
夜勤帯は医師の常駐がいないケースも多く、“判断の質”が問われます。
| 夜間の重要情報 | 伝えるべき理由 |
| 急変時の対応フロー | 迷いなく初動を取れる |
| オンコール(誰に・どこまで) | 相談窓口を明確にする |
| 連携職種・他部署の鍵役 | 調整が早い=安全性向上 |
例えば「このDrは深夜対応は早い/このDrは朝まで待つタイプ」といった、いわゆる“カルテ外の実務知”が大きく役に立ちます。
“誰が休むか/誰が残るか”という視点で記録に残す
引き継ぎでは「業務の中身」に目がいきがちですが、実は最も重要なのは“人員配置の背景”です。
| 視点 | 重要な理由 |
| 休み・シフト希望 | 班運営の推測精度が上がる |
| 得意・不得意 | 夜間対応のバランスが整う |
| 経験値・役割 | リスク管理がしやすい |
口頭では伝わりづらいこの部分を短いメモでもいいので残しておくだけで、後任者の混乱を大幅に減らせます。
ここで押さえておきたい要点
| ただの引き継ぎ | 質の高い引き継ぎ |
| 業務内容だけを伝える | 体制・背景・判断軸まで伝える |
| カルテ情報のみ共有 | 非カルテ情報も共有 |
| 事実だけ説明 | 文脈(なぜそうしていたか)も説明 |
最終日までにやっておきたいチェックリスト+例文
ここからは、現場で“そのまま使える”実践パートです。引き継ぎは資料作成だけでなく、「相手に渡して終わり」ではなく「渡した後の理解確認」まで行うことで完成します。
この章では、最終日までに押さえるべきチェックリストと、後任者や同僚に向けた挨拶例文まで紹介します。
物品返却・資料整理・退職前チェックリスト
退職直前の慌ただしさの中で忘れ物が最も多いのが、この3カテゴリーです。
| チェック項目 | 内容 |
| 物品返却 | 名札/鍵/ICカード/貸与ユニフォーム |
| 書類整理 | 引き継ぎシート/委員会関係/備品棚卸 |
| データ・共有物 | 共有フォルダ・紙資料の更新確認 |
加えて、口頭だけで終わらせず、渡した資料が「どこに保管されているか」まで案内しておくとさらに親切です。
後任者への引き継ぎ挨拶文の例
後任者には、「申し送り」というより「公式なバトン渡し」の形で挨拶をしておくと、受け取り側に安心感が生まれます。
このたび、○月末をもって退職することになりました。
担当していた患者情報・業務内容については、まとめた引き継ぎ資料をお渡ししています。
特に○○さん(患者)については不安が強く、関係づくりの継続が重要となりますので、補足事項も追記しています。
ご不明点などありましたら、最終日まで遠慮なくお声がけください。よろしくお願いいたします。
同僚・多職種向け挨拶例文
後任者だけでなく、日常的に関わった多職種にも短い挨拶をしておくと印象が良く、今後のキャリアでも良い関係性が残ります。
短い期間でしたが、大変お世話になりました。
皆さまのおかげで多くの学びを得ることができました。
今後の業務も円滑に進むよう、担当業務については後任へ引き継ぎ済みです。
またご一緒する機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
確認ミニ会議(5分でできるフォローアップ)
実務では、引き継ぎ資料を渡しただけでは「安心」は得られません。短時間の“確認ミニ会議”を行うだけで引き継ぎの完成度がぐっと上がります。
| 確認ポイント | 内容 |
| ① 伝えた内容の整理 | 資料の見方・保管場所 |
| ② 問い合わせ項目 | 特に迷いやすい患者・業務 |
| ③ 万が一への備え | 例:相談先/ドクター情報 |
この3点を5〜10分で共有するだけで、引き継ぎは「渡す」から「使える」段階へレベルアップします。
引き継ぎが遅れる・難航する時の対処法
現場では「計画通りに進まない」ことも珍しくありません。
特に看護師の引き継ぎは、後任が決まらない・シフト調整が難しい・患者担当を外れられないといった理由で遅れやすく、結果的に退職日が延びてしまうケースも見られます。
ここでは、よくある“難航ケース”と、現場で使える対処方法を解説します。
後任が決まらない/急に人員が減った場合
病棟では慢性的な人手不足が続いているため、「後任がまだ決まっていない」という理由で引き継ぎがスタートできないケースは珍しくありません。
しかし、これは退職を延ばす理由には本来なりません。
- 後任が未定でも「引き継ぎ資料」は先に作成
- 業務構造(誰が・いつ・どこを)を書面化しておく
- “代替可能”な状態にしておけば、受取者が誰でも対応可能
資料を作り始める時点で後任は決まっている必要はありません。
夜勤や担当患者が離せない場合
「あなたがいないと回らない」が引き止め材料に使われることがありますが、これは“感情論”であり法的拘束力はありません。
対処の考え方
| ケース | 対応 |
| 夜勤が不足 | 退職日優先で調整 |
| 担当患者 | 情報継承を優先 |
| 特殊対応 | マニュアル化して移管 |
鍵になるのは、「属人化」していた業務を“誰でもできる形”に変えることです。
引き継ぎが途中で止まった/後任が理解していない場合
資料を渡しても、相手が理解していなければ“引き継ぎが完了した”とは言えません。
- 資料を渡す(説明)
- 質問ポイントを抽出
- 実務で試してもらい、必要に応じて補足
また、「あとから聞いてくるかも…」と不安になる場合は“参照先”を明示しておくと安心です。
「困ったら、○○ファイルの2ページ目」「情報は○○フォルダの引き継ぎPDFに」
引き継ぎが難航する原因=ほぼ「情報の構造化不足」
| 悪いパターン | 良いパターン |
| 口頭のみ | 書面+確認 |
| 人に依存 | 構造に依存 |
| 退職直前に着手 | 早期から情報棚卸 |
引き継ぎポイントを押さえて信頼で卒業
看護師の引き継ぎは、“業務を手放す作業”ではなく、“次につなぐための橋渡し”です。
特に医療現場では、複雑な看護業務・患者ごとの個別性・シフト性・多職種連携といった要素が重なり合うため、引き継ぎの質がそのまま現場の安全性・患者満足度・チームの信頼に直結します。
つまり、引き継ぎは「退職手続きの一部」でありながら、看護師としてのプロ意識・姿勢がもっとも表れる瞬間でもあります。
本記事で解説した重要ポイント
| 項目 | 理由 |
| 何から始める? | まずは“範囲と着眼点”の整理 |
| 情報整理の仕方 | カルテ情報+非公式情報が鍵 |
| 夜勤・シフト | 「業務」ではなく「安全性」の共有 |
| チェックリスト | 抜け漏れを防止する仕組み |
| 例文 | 後任者との関係性を円滑にする |
引き継ぎを丁寧に仕上げることは、“今までの働き方に対する信頼”の証明でもあり、“退職後の評価信用”にも繋がります。「退職後の印象」は“最後の行動”で決まります。
正しく・丁寧に“卒業”して、次のキャリアをより良い形で迎えていきましょう。
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