同期の結婚ラッシュに、素直に喜べなかった
看護師としてのキャリアも中堅に差しかかる時期。そんなある日、SNSで次々と流れてくるのは「入籍しました」「結婚式を挙げました」「妊娠しました」の報告。
ふとした瞬間、心の中に湧き上がるのは「おめでとう」の気持ちだけではない——。
この記事では、看護師という職業特有のライフステージとのギャップや、そこに生まれる心理的な葛藤を第三者視点から掘り下げます。
なぜ“置いていかれた感覚”が強まるのか
看護師という職業は、多忙な勤務体制や不規則なシフトの影響から、同世代と比較して「ライフイベントのタイミング」がずれやすい傾向があります。
特に夜勤や休日出勤などで土日に予定を合わせづらくなることで、学生時代の友人や一般企業に勤める同期との交流が減り、いつの間にか「自分だけが取り残されている」と感じやすい状況が生まれます。
この“置いていかれた感覚”は、ライフイベント心理学でも「社会的比較による自己効力感の低下」として説明されます(注釈①)。他者と比較することで、自分の現状に対する満足感が相対的に下がってしまうのです。
【注釈①】社会的比較理論:Festinger, L. (1954). A Theory of Social Comparison Processes.
喜べない自分に罪悪感を抱くメカニズム
「おめでとう」が言えない自分を責めてしまう心理には、自己認知のギャップがあります。
看護師として多くの命に向き合ってきた人ほど、「人の幸せを心から祝福すべきだ」という倫理観を強く持つ傾向がある一方で、心の奥底では「自分は何も進んでいない」「このままでいいのか」という焦りや羨望が混在します。
この矛盾がストレスを生み、「祝福できない自分」に対する二重の葛藤を引き起こします。
これはライフサイクル理論において、個人のキャリアステージとパーソナルライフステージが乖離したときに起きやすい内的摩擦とされています(注釈②)。
【注釈②】Super, D. E. (1990). A life-span, life-space approach to career development.
結婚=幸せという“選択アーキテクチャ”に影響されていないか
「周囲がみんな結婚している=自分も結婚すべき」という無意識の思い込みには、“選択アーキテクチャ”という概念が関係しています。
これは、環境によって選択行動が左右されるという行動経済学の理論で、たとえばSNSやテレビなどで結婚が「標準の選択」として繰り返し提示されると、それ以外の選択肢(たとえばキャリアアップや独身ライフ)に目が向きにくくなるという現象を指します(注釈③)。
看護師としてのキャリアを充実させることも、十分に自分らしい幸せのかたちです。けれども“多数派のライフイベント”が過剰に可視化されている現代では、「私もそろそろ…」と焦りを感じやすくなる環境が整っているとも言えます。
【注釈③】Thaler, R. H., & Sunstein, C. R. (2008). Nudge: Improving decisions about health, wealth, and happiness.
焦る気持ちを前向きな行動に変えるには
焦りを「自分を責める感情」で終わらせるのではなく、「見つめ直すタイミング」として捉えることができれば、そこには新たな選択肢が生まれます。
たとえば、ジャーナリング(日々の思考や感情を書き出すこと)によって、自分の価値観や望むライフスタイルを可視化することができます(注釈④)。
また、キャリアに関する迷いを感じているなら、第三者的な視点で整理できる“キャリアコーチング”の利用も有効です。
プロの支援を受けることで、「本当はどんな生き方がしたいのか」「何を優先したいのか」を、冷静に考える時間が得られます。
【注釈④】参考:Journal of Positive Psychology「Writing as a path to personal insight」(2015)
このように、“結婚=幸せ”という前提に縛られるのではなく、「今の自分にとって何が大切か」を見つめ直すことで、焦りは「行動のきっかけ」へと変わっていきます。
私の人生、このままでいいのかな?
結婚や出産の話題が身近になり、ふとした瞬間に「自分の人生、このままでいいのかな?」と感じる看護師は少なくありません。
病棟勤務という仕事にやりがいはあるけれど、夜勤を繰り返す生活、休みの日は寝て終わってしまう現実──。周囲と比べて焦る気持ちや、立ち止まってしまう自分に戸惑うこともあるでしょう。
こうした感情は、ライフイベント心理学で言う「移行期(transition)」に差しかかっているサインとも言えます【注釈①】。この時期は、キャリアだけでなく人生全体を見直すチャンスでもあります。
今の職場や働き方が悪いわけではなくても、“これから”を考えるうえでは一度、自分の価値観や将来像を整理する時間が大切です。自己理解を深める方法として、ジャーナリング(思考の書き出し)やキャリアコーチングの活用が効果的です【注釈②】。
夜勤のある生活と、見えない将来の不安
夜勤明けは、身体だけでなく心もどこか重たい──。そんな感覚を抱えていませんか?
不規則な生活リズムは、肌荒れやホルモンバランスの乱れなど健康面にも影響を及ぼします。生活を整える時間が取れず、将来設計を考える余裕も奪われがちです。
将来子どもがほしい、家族を持ちたいと考えていても、今の働き方でそれが実現できるのか、不安を抱える人は多くいます。
将来設計を考えるときに必要な“自己軸”とは
転職やキャリアの方向性を考えるうえで、重要なのが“自己軸”の明確化です。自己軸とは、何を大切にしたいか、どんな人生を送りたいかといった自分の価値観。
例えば「自分の時間を大切にしたい」「将来は家庭と両立したい」という思いがあるなら、それを中心に働き方を見直すことができます。
外的な評価ではなく、内側の声に耳を傾けることが、納得感のある選択につながります。
「やりがい」だけじゃ補えない日常のゆらぎ
看護の現場で感じるやりがいは、かけがえのないものです。ただ一方で、やりがいだけでは補いきれない「自分らしい生活」への願いも大きくなっていきます。
友人と過ごす時間や自分の趣味、休息の時間が十分に取れないことに、ふとした時に寂しさや虚しさを感じることもあるはず。
生活全体のバランスを見直すことで、心のゆらぎに気づき、次の一歩を考えるきっかけになります。
働き方を見直したら、考え方が変わった
看護師としてのキャリアに悩み始めたとき、多くの人が「今のままではダメかもしれない」と感じます。
ただ、それは何かを“捨てる”のではなく、“選び直す”タイミングかもしれません。
実際に働き方を変えることで、生活リズムや心の余白が整い、自然と考え方も前向きになるケースが多く見られます。
「選択アーキテクチャ」で人生の土台を整える【注釈①】
行動経済学の概念である「選択アーキテクチャ」とは、人が無意識に選ぶ選択肢の構造を見直す手法です。
仕事もプライベートも、自分の意思で選んでいるようで実は“流されている”場面が少なくありません。意識的に選択の環境を整えることで、より自分らしい人生設計ができるようになります。
日勤でも稼げる働き方は実は存在する【注釈②】
夜勤を続けなければ収入が下がる――そう思い込んでいませんか?
実は、訪問看護やクリニック、企業看護師など、日勤中心でも年収400〜500万円台を維持できる職場は複数存在します。特に訪問看護はインセンティブ制度を取り入れている事業所もあり、働いた分だけ評価されるという点でも注目されています。
働き方を変えても“看護師であること”は変わらない
働き方を見直すと、「私はこの道を外れたのでは?」という不安がよぎることもあります。
しかし、どんな場所で働いていても、誰かの健康を支えるという“看護師の本質”は変わりません。ライフステージや価値観に合わせた柔軟な働き方こそ、これからの看護師に求められる力です。
誰かと生きるために、まず“自分”を整える
人生の大きな転機となる結婚やパートナーとの同棲を見据えたとき、多くの看護師が立ち止まって考えるのが「自分の働き方」と「これからの暮らし方」です。
仕事に追われる日々のなかで、自分の人生が誰かとの関係性を築く余白を持てているか、ふとした瞬間に不安がよぎることもあるでしょう。
ここでは、“誰かと生きる”ことを前提に、自分自身をどう整えていくかを考えていきます。
自分の時間を持てることの価値
夜勤明けに仮眠して目覚めた夕方、気がつけば1日が終わっていた。そんな繰り返しに虚しさを感じたことがある人は少なくないはずです。
自分のための時間を持つことは、単なる贅沢ではなく「自己理解」や「自己調整」にとって重要な土台になります。
心理学でも“セルフコンパッション”の重要性が注目されており、自分をケアできる人ほど他者との関係性も良好になるといわれています(注釈①)。
パートナーシップとキャリアは両立できる
結婚=仕事をセーブする、という時代ではありません。今は“共に働き、共に支え合う”パートナーシップを築くカップルも増えています。
実際、訪問看護など日勤中心の働き方に転職したことで、夕方以降の時間をパートナーと一緒に過ごせるようになったという声も多く聞かれます。
キャリアとパートナーシップは天秤ではなく、互いに影響し合いながら育てていくものなのです。
心の余裕がある働き方が、いい関係性をつくる
人間関係の多くは“余裕のあるとき”にこそ育まれます。忙しさに追われると、ちょっとした言葉にも敏感になり、相手に優しくできなくなることもあります。
だからこそ、日々の生活リズムや働き方を見直し、自分にとって「心地よく働ける形」を選ぶことが、良好な関係性を保つカギとなります。
自分を整えることは、誰かとともに生きる未来への第一歩なのです。
焦らなくていい。“今のまま”を抜け出す一歩
転職は逃げじゃない。「選ぶこと」が大切
「転職=逃げ」と捉えがちだけれど、実際は“自分の意思で選ぶこと”そのものに価値がある。
頑張ってきた過去を否定するのではなく、「次のステージに進みたい」と思えることは前向きな成長の証。
周囲にどう思われるかよりも、自分が納得できる選択を重ねることが、自分らしい人生をつくっていく。
「もしも」を描けるようになると、人は変われる
今の環境しか見えていないと、可能性は広がらない。
でも「もしも訪問看護に転職したら」「もしも日勤中心になったら」と想像するだけで、未来への視界は一気に開ける。
イエス・バット法(Yes, but法)という心理技法でも、ネガティブな感情に対して「でもこうなったらどう?」と転換することで、行動に移しやすくなる(注釈③:認知行動療法の一技法より)。
まずは話してみる。それが新しい未来の始まり
転職や働き方の変更を「大きな決断」として抱え込む必要はない。まずは気軽に相談するところから始めればいい。
同じように悩んできた先輩や専門のキャリアアドバイザーが、視野を広げてくれる。話すことで言語化され、自分の気持ちや希望も整理されていく。それが未来の始まりとなる一歩になる。
“今の自分”を見つめることから、すべてが始まる
看護師としての日々に追われ、「このままでいいのかな」と感じる瞬間は誰にでも訪れる。結婚や出産、キャリアの分岐点に立たされた時こそ、自分の価値観や理想の生活を見つめ直す好機だ。
“やりがい”と“暮らしやすさ”のどちらかを諦めるのではなく、両立できる働き方を探すことが、今後の選択肢を広げる鍵となる。
まずは気軽にLINEで相談してみませんか? 一人では気づけなかった「自分らしい働き方」に出会えるかもしれません。
【注釈】 注釈①:『看護職の夜勤と健康』日本看護協会出版会(2019年) 注釈②:『看護師白書2023』公益社団法人 日本看護協会 注釈③:認知行動療法における「Yes, but法」:Beck, J. S. (2011). Cognitive Behavior Therapy, Second Edition
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